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褒め方・叱り方で学力は変わるのか──結果ではなく思考を認める──
【家庭学習設計シリーズ⑧】
はじめに
家庭学習設計シリーズ第7回では、習い事や部活動を続けながら、必要な学習と休息を一週間の中へ配置する「時間設計」について整理しました。
時間を確保し、実際に学習へ取り組んだ後、家庭にはもう一つ大切な場面があります。
学習の結果を、親子でどのように受け止めるかという場面です。
テストでよい点数を取った。
難しい問題を解けた。
課題を最後まで終えた。
そのようなときには、子どもを褒めたくなります。
一方、課題に取り組まなかった。期限を守らなかった。同じ間違いを繰り返した。そのようなときには、注意したり、叱ったりする必要を感じることもあります。
では、どのように褒め、どのように叱れば、子どもの学力は伸びるのでしょうか。
褒めることや叱ることだけで、知識が増えたり、問題が解けるようになったりするわけではありません。
しかし、大人の言葉は、子どもが結果をどのように受け止め、次に何を選ぶかへ影響します。
今回考えたいのは、子どもを思いどおりに動かすための言葉ではありません。
子どもが自分の学習を振り返り、次の行動を自分で考えられるようにするための言葉です。
褒めることも、叱ることも、目的ではない
子どもが課題を終えたら褒める。
課題を行わなかったら叱る。
この関わり方を繰り返すと、子どもは、大人からどのように評価されるかを基準に行動するようになることがあります。
褒められるから行う。
叱られたくないから行う。
この状態では、大人が見ていない場所で、自分の学習を判断することが難しくなります。
家庭学習で育てたいのは、褒められなくても必要な課題に取り組み、間違えたときには自分で修正し、分からないときには助けを求められる力です。
そのため、褒めることも叱ることも、子どもを動かすための報酬や罰として使うのではなく、自分の学習を見直すための手掛かりとして用いる必要があります。
結果を喜ぶことは、間違いではない
結果ではなく過程を大切にすると聞くと、
「よい点数を取っても、褒めてはいけないのでしょうか。」
と感じるかもしれません。
その必要はありません。
努力して得た結果を一緒に喜ぶことは、自然なことです。
100点を取ったら、「100点だったね」と喜んでよい。前回より点数が上がったら、その変化を認めてよい。難しい問題を解けたら、その達成を一緒に味わってよいと思います。
問題になるのは、結果だけで、子ども自身の価値や能力まで決めてしまうことです。
「100点を取るなんて、頭がいいね。」
「この問題ができるなんて、才能があるね。」
こうした言葉が続くと、子どもは、次も「頭がよい自分」や「できる自分」でいなければならないと感じることがあります。
難しい問題へ挑戦して間違えるより、確実に正解できる問題を選びたくなるかもしれません。
結果を喜ぶことと、結果によって子どもを評価することは同じではありません。
結果を見た後に、
「自分では、何がうまくいったと思う?」
「前回から、何を変えた?」
と尋ねることで、意識を結果の数字から、その結果を生んだ過程へ戻すことができます。
「努力を褒める」だけでも十分ではない
「頭のよさではなく、努力を褒めましょう。」
という考え方があります。
方向性としては大切ですが、「頑張ったね」と伝えるだけで、すべてが解決するわけではありません。
長時間机へ向かっていても、分からない問題をそのままにしていることがあります。
同じ方法を繰り返しても、結果につながらないことがあります。
解答を書き写して課題を終えても、それを努力と呼ぶことはできません。
大切なのは、努力した時間の長さだけではなく、その中でどのように考え、何を選び、どのように修正したのかを見ることです。
例えば、
・分からない問題で、例題へ戻った
・問題文の条件に印をつけた
・一度目の方法がうまくいかず、別の方法を試した
・間違えた理由を自分の言葉で説明した
・解答を閉じて、もう一度解き直した
・分からない場所を具体的にして質問した
こうした行動は、次の学習にも使用できます。
「長い時間頑張ったね」だけではなく、
「分からないまま進まず、例題へ戻ったところがよかったね。」
「一度間違えた後に、方法を変えて考え直したね。」
と、実際に確認できた行動を具体的に伝えます。
認めたいのは、努力したという印象ではなく、学びを前へ進めた判断と修正です。
「思考を認める」とは、正解だと認めることではない
子どもの思考を認めることは、子どもの考えをすべて正しいとすることではありません。
考え方が間違っている場合もあります。
必要な条件を読み落としていることもあります。
自分に都合のよい理由をつけて、課題を後回しにしていることもあります。
それでも、まず本人がどのように考えたのかを聞きます。
「どこから、そう考えたの?」
「最初に何をしようとした?」
「途中で、どこが違うと思った?」
思考の過程を言葉にすることで、本人も、自分の判断がどこでずれたのかを確認できます。
大人がすぐに正しい答えを伝えれば、その問題は早く終わるかもしれません。
しかし、子どもが自分の考えを説明し、ずれを見つけ、修正する経験は、次の問題にもつながります。
思考を認めるとは、結論に同意することではありません。
結論へ至るまでの過程を、修正可能なものとして丁寧に扱うことです。
叱るべき場面はある
結果ではなく思考を認めるという考え方は、何をしても叱らないという意味ではありません。
課題へ取り組まない、提出期限を守らない、解答を写して取り組んだことにする、事実と異なる報告をする、あるいは同じ状態が続いているにもかかわらず修正しようとしない──。このような場合には、大人がはっきりと境界を示す必要があります。
ただし、叱る対象は、子どもの人格ではありません。
「怠け者だ。」
「責任感がない。」
「どうして、いつもできないの。」
このように人物全体を否定しても、次に何を変えればよいのかは分かりません。
確認すべきなのは、実際に選んだ行動と、現在残っている課題です。
「指定された範囲が、まだ終わっていない。」
「丸付けはあるけれど、解き直しが行われていない。」
「昨日行うと決めた課題が、そのまま残っている。」
事実を具体的にしたうえで、
「どこで予定が崩れた?」
「この課題を、いつ回収する?」
と確認します。
叱るべき対象は、子ども自身ではなく、修正されないまま残っている行動です。
「できなかった」と「行わなかった」を分ける
課題が終わっていないという結果だけを見ても、その原因は分かりません。
内容が難しく、自分だけでは進められなかったのか、予定の立て方に無理があり、時間を確保できなかったのか。あるいは、課題の範囲を正しく理解していなかったのか、ほかのことを優先して、自分で行わないことを選んだのか。同じ未完了であっても、原因が違えば、必要な対応も異なります。
分からなかったのであれば、質問できる状態をつくる。予定が崩れたのであれば、一週間の配置を見直す。範囲を理解していなかったのであれば、記録の方法を変える。別のことを優先したのであれば、その選択と結果を本人が引き受け、課題を回収する日程を決めます。
理由を尋ねる目的は、未完了を許すためではありません。
次に同じ状態を繰り返さないために、修正する場所を見つけることです。
大人が先に評価すると、子どもの振り返りが止まる
テストや課題を見たとき、大人はすぐに感想を伝えたくなります。
「よくできたね。」
「もっとできたはずでしょう。」
「この点数では困る。」
しかし、大人が先に評価を伝えると、子どもは自分で結果を捉える前に、大人の評価を受け取ることになります。
すると、本人の意識は、
「自分は何を理解できていたのか。」
「どこを変える必要があるのか。」
ではなく、
「褒められたか。」
「怒られたか。」
へ向かいます。
結果を見た直後ほど、まず本人の言葉を待つことが大切です。
「この結果を、自分ではどう見ている?」
「今回、うまくいったことは何?」
「次に変えたいところはある?」
本人が自分の現在地を言葉にした後であれば、保護者の意見も、一方的な評価ではなく、次の行動を一緒に考えるための材料になります。
学年によって、言葉の距離を変える
小学生
小学生は、自分の学習過程を一人で整理することがまだ難しい時期です。
保護者が、確認できた行動を具体的に言葉へ置き換えます。
「問題番号をきちんと書いたから、どこを解いたか分かるね。」
「間違えた問題を、答えを閉じてもう一度できたね。」
「分からないところに印をつけて残せたね。」
一方、課題が未完了の場合には、本人だけへ責任を負わせず、家庭の予定や課題の置き方も確認します。
そのうえで、残った課題をいつ行うのかを一緒に決め、完了まで確認します。
中学生
中学生では、大人が評価を伝える前に、本人の振り返りを聞くことが重要になります。
「今回の学習を、自分ではどう見ている?」
「予定と実際の行動で、違ったところはどこ?」
と尋ね、本人が自分の言葉で現在地を捉える時間をつくります。
ただし、本人の判断へすべてを委ねるわけではありません。未提出や未修正が続いている場合には、事実を確認し、いつどのように回収するかを明確にします。
高校生
高校生では、結果も、その後の選択も、基本的には本人が引き受けます。
保護者が点数や判定を見て、すぐに評価や進路判断を伝えるのではなく、本人がその結果をどのように捉え、次に何を変えようとしているのかを聞きます。
一方、生活の土台が崩れている場合や、出願・手続など期限を過ぎると取り戻せない事柄については、大人が確認する必要があります。
信頼することと、必要な境界を示さないことは同じではありません。
褒める・叱るを、次の行動へつなげる
家庭での声掛けは、次の三つの順序にすると整理しやすくなります。
1.事実を確認する
「指定された範囲まで終わっているね。」
「二問、解き直しが残っているね。」
評価を加える前に、現在の状態を具体的にします。
2.本人の考えを聞く
「何がうまくいったと思う?」
「どこで予定が崩れた?」
本人が、結果の原因を自分の言葉で確認します。
3.次の行動を決める
「次も続けることは何?」
「残った課題は、いつ確認する?」
振り返りを、具体的な行動と日程へつなげます。
褒めて会話を終えるのでも、叱って反省させて終えるのでもありません。
次に本人が何をするのかまで決まって、初めて言葉が学習設計として機能します。
安心できる家庭と、基準のある家庭は両立する
家庭を、子どもが安心して考え、失敗できる場所にすることは大切です。
しかし、安心できる家庭とは、何をしても許される家庭ではありません。
課題を行わなくてもよい。期限を守らなくてもよい。事実と異なる説明をしても問われない。
そのような状態は、安心ではなく、学習の基準が失われている状態です。
家庭に必要なのは、失敗しても人格を否定されないことと、残った課題には向き合うことの両方です。
間違えたことは責めない。
分からなかったことも責めない。
しかし、間違いをそのままにすること、分からない状態を隠すこと、必要な修正を行わないことについては、静かに基準を示します。
安心とは、何をしても許されることではありません。失敗を隠さず、やり直せることです。
おわりに
褒め方や叱り方だけで、子どもの学力が決まるわけではありません。
学力は、必要な内容を学び、考え、間違いを修正し、時間を置いて再現する中で育ちます。
しかし、その過程で大人からどのような言葉を受け取るかによって、子どもが結果のどこを見るかは変わります。
能力を評価されれば、能力を証明することへ意識が向く。
結果だけを責められれば、失敗を隠したくなる。
方法、判断、修正を具体的に認められれば、次にも使える行動が見える。
褒めることも、叱ることも、子どもを評価するために行うものではありません。
自分の学習を振り返り、次に何を続け、何を変えるのかを考えるための言葉です。
結果を見ないのではなく、結果だけで判断しない。
過程を認めるだけで終わらず、次の行動へつなげる。
その積み重ねが、周囲の評価がなくても、自分の学習を修正できる力を育てていきます。
💡 今日からできること
次に、お子様のテストや課題を見るときは、褒める言葉や注意する言葉を伝える前に、次の三つを試してみてください。
1.現在の状態を、評価せずに一つ伝える
2.本人がどう考えているかを、一つだけ尋ねる
3.次に行うことを、一つ決める
例えば、
「解き直しまで終わっているね。今回は何を変えたの?」
あるいは、
「二問残っているね。いつ、もう一度確認する?」
と尋ねます。
長く話す必要はありません。
事実を確認し、本人の考えを聞き、次の行動を一つ決める。
その短い会話が、褒められるため、叱られないための学習を、自分で考え直すための学習へ変えていきます。
📚 家庭学習設計シリーズ
このシリーズでは、Educatioが考える「家庭教育」について、教育学・認知心理学・長年の受験指導経験をもとに整理しています。
家庭での関わり方に迷ったときは、ぜひシリーズを通してご覧ください。
第1章 教育思想編
第1回
親は勉強を教えるべきか
──家庭教育で本当に大切な「環境」の設計
第2回
子どもが伸びる家庭の共通点
──家庭は「教える場所」ではなく「考える場所」
第2章 学年別設計編
第3回
小学生の親の役割
──「考える時間」を奪わない関わり方
第4回
中学生の親の役割
──管理ではなく伴走するという考え方
第5回
高校生の親の役割
──管理から信頼へ
第3章 家庭設計編
第6回
家庭学習で最も価値がある15分
──答え合わせより大切な時間
第7回
習い事と学力の関係
──時間設計という考え方
第8回(今回)
褒め方・叱り方で学力は変わるのか
──結果ではなく思考を認める
第9回
家庭での言葉が、子どもの思考に与える影響
──学びを止めない声掛け
第4章 自立設計編
第10回
自立する子は、どのように育つのか
──「勉強しなさい」を卒業する家庭
※シリーズの構成は、今後の内容に応じて追加・調整する場合があります。
📖 あわせて読みたい記事
▶ Educatio Design
──教育を設計するための思想と実践
(リンク)
▶ 第5回|高校生の親の役割
──管理から信頼へ
(リンク)
▶ 第6回|家庭学習で最も価値がある15分
──答え合わせより大切な時間
(リンク)
▶ 第7回|習い事と学力の関係
──時間設計という考え方
(リンク)
▶ 学習設計記録/Learning Design Record
(リンク)
次回予告
第9回
家庭での言葉が、子どもの思考に与える影響
──学びを止めない声掛け──
子どもが問題の前で手を止めているとき、家庭ではどのような言葉を掛ければよいのでしょうか。
励ますつもりで掛けた言葉が、考えることを急がせたり、正しい答えだけを求めさせたりすることがあります。
次回は、「早くしなさい」「どうして分からないの」といった言葉が子どもの思考へ与える影響と、自分の力でもう一度考え始めるための声掛けについて整理します。
One Thought
褒める言葉も、叱る言葉も、子どもを評価するためのものではありません。
自分の学びを見直す視点を渡すための言葉です。
Educatioの塾生・保護者の皆様には、具体的な声掛け例や、感情的になったときの立て直し方をまとめた実践資料を、別途ご案内いたします。