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習い事と学力の関係──時間設計という考え方──
【家庭学習設計シリーズ⑦】
はじめに
家庭学習設計シリーズ第6回では、答え合わせの後に、間違えた理由を分け、解答を閉じて再現し、次の行動を決める「学習後の15分」について整理しました。
しかし、その15分を含め、家庭学習の時間そのものを確保することが難しいご家庭もあります。
保護者面談では、
「習い事が多すぎるのでしょうか。」
「受験を考えるなら、習い事を減らした方がよいでしょうか。」
「部活動と勉強を両立できるのでしょうか。」
といったご相談をいただきます。
習い事や部活動を続けるか、学習を優先するか。この問題は、どちらか一方を選ぶだけでは解決しません。
大切なのは、限られた一週間の中で、何を残し、何を動かし、何を必ず行うのかを決めることです。
今回のテーマは、習い事の数ではありません。
習い事と学習を、どのように一つの生活の中へ配置するか。家庭における「時間設計」について考えます。
習い事が、学力を下げるわけではない
習い事には、学習とは異なる価値があります。
身体を動かすこと。音楽や芸術に触れること。技術を身につけること。仲間と協力すること。練習を重ね、一つの目標へ向かうこと。
その経験を、学力だけを理由に簡単に手放す必要はありません。
一方で、習い事を続けているだけで、学習との両立が自然に成立するわけでもありません。
移動を含めて帰宅が遅くなる。疲労によって机へ向かえない。課題が週末へ集中する。答え合わせや解き直しが後回しになる。
こうした状態が続けば、学習へ影響が現れます。
問題なのは、習い事そのものではありません。
習い事を含む生活の中に、必要な学習時間と休息が配置されていないことです。
「空いている時間」と「学習できる時間」は違う
予定表を見ると、習い事と習い事の間に30分ある。帰宅後、就寝までに1時間ある。休日の午後が空いている。
その時間を合計すれば、家庭学習は十分にできるように見えるかもしれません。
しかし、「予定が入っていない時間」と「実際に学習できる時間」は同じではありません。
移動する時間。食事をする時間。準備や片付けをする時間。気持ちを切り替える時間。身体を休める時間。
これらを考慮せず、予定表の空白をすべて学習時間として扱うと、計画は最初から実行できないものになります。
例えば、習い事から帰宅した直後の30分に、毎回集中して難しい問題へ取り組む計画を立てても、疲労や空腹によって機能しないことがあります。
それは、本人の意志が弱いからとは限りません。学習を置く場所が、生活の状態と合っていないのです。
時間設計では、何分空いているかだけではなく、その時間にどのような学習なら実行できるのかまで考える必要があります。
一日ではなく、一週間で考える
習い事と学習を両立するとき、毎日同じ時間を確保しようとすると、計画が崩れやすくなります。
習い事がある日と、ない日。
帰宅が早い日と、遅い日。
集中して取り組める日と、短い確認だけに適した日。
一週間の中には、異なる性質の日があります。
習い事がある日に無理をして長時間勉強する必要はありません。その代わり、習い事のない日に重要な課題を進め、忙しい日には暗記や音読、解き直しの確認など、短時間でも行える学習を配置します。
一日ごとの学習時間を均等にすることではなく、一週間を通して必要な学習を完了できる状態をつくる。
これが、時間設計の基本です。
一週間を設計する四つの段階
1.動かせない時間を先に置く
最初に、学校、通学、習い事、部活動、食事、入浴、睡眠など、簡単には動かせない予定を書き出します。
ここで大切なのは、習い事の開始時刻と終了時刻だけを書かないことです。
準備、移動、帰宅後の食事や休息まで含めて、実際に使用する時間を確認します。
睡眠を削ることを前提にした計画は、長く続きません。
まず生活の土台を置き、その後に学習を配置します。
2.一週間で完了すべきことを決める
次に、その週に必要な学習を整理します。
・塾から指定された課題
・学校の宿題や提出物
・丸付けと解き直し
・覚え直した内容の確認
・次回の授業や確認テストの準備
・継続して行う音読、計算、英単語など
このとき、「一週間に何時間勉強するか」だけではなく、「何を、どの状態まで終えるか」を決めます。
机へ向かった時間が長くても、課題が未完了で、丸付けや解き直しが残っていれば、学習が完了したとは言えません。
時間は、目的ではありません。必要な学習を完了させるために配分するものです。
3.内容に合わせて学習を配置する
まとまった思考が必要な学習は、比較的余裕のある日に置きます。
短時間で区切れる学習は、習い事がある日にも配置できます。
例えば、
・算数や数学の新しい単元、記述問題、過去問演習は、まとまった時間が取れる日
・英単語、漢字、音読、計算、前日の解き直し確認は、短い時間しか取れない日
・答え合わせや学習記録は、学習終了前の時間
というように、課題の性質と時間の状態を合わせます。
「空いているところへ何となく勉強を入れる」のではなく、「この学習には、どの時間が適しているか」を考えることが重要です。
4.予備の時間を残す
一週間の予定を、最初からすべて埋めないことも大切です。
学校行事が長引く。体調が優れない。課題に予想以上の時間がかかる。急な予定が入る。
生活には、計画どおりに進まない日があります。
そのため、一週間の中に、未完了の課題を回収するための時間を一つ残しておきます。
予備時間は、何もしない空白ではありません。計画が崩れたときに、学習全体を立て直すための余白です。
余白のない計画は、一度の遅れによって、その後の予定まで連続して崩れてしまいます。
継続できる計画には、修正するための時間が含まれています。
予定があることは、未完了の理由ではなく、設計条件である
発表会、大会、試合、旅行、家族での外出など、あらかじめ分かっている予定もあります。
その予定自体を否定する必要はありません。
ただし、予定があることを理由に、必要な課題がそのまま消えるわけではありません。
事前に分かっているのであれば、課題を前の日へ移す。数日に分ける。帰宅後に無理をせず、翌日の予備時間で回収する。
予定に合わせて学習を組み直すことも、学習設計の一部です。
一方、急な体調不良など、事前には分からない事情もあります。その場合には、できなかったことを責めるのではなく、残った課題を確認し、新しい期限を決めます。
大切なのは、予定どおりにできなかったことではありません。
未完了の課題を、理由とともに消してしまわないことです。
学年によって、時間設計の主体は変わる
時間設計を誰が担うかは、子どもの成長に応じて変わります。
小学生
小学生に、一週間の予定をすべて自分で管理させることは簡単ではありません。保護者が習い事や家庭の予定を整理し、課題に取り組む時間を一緒に決めます。
そして、指定された課題が終わっているか、丸付けや解き直しまで行われているかを確認します。保護者が問題を代わりに解く必要はありませんが、学習を行える環境をつくり、完了までを確認することは、家庭が担う大切な役割です。
中学生
中学生では、本人と一緒に一週間を設計し、少しずつ管理を本人へ移します。部活動、学校行事、定期テスト、塾の課題を見ながら、いつ何を行うのかを本人が考えます。
保護者は細かな時間を管理するのではなく、課題の未完了が続いていないか、睡眠や体調に影響が出ていないかを確認します。計画どおりに進まなかったときには、叱る前に、
「どこで予定が崩れた?」
「次の一週間では、何を変える?」
と尋ね、本人が修正できるよう支えます。
高校生
高校生では、時間設計の主導権は本人にあります。学習、部活動、学校行事、進路準備をどのように配分するか。その選択と結果を、本人が引き受ける段階です。
ただし、すべてを本人だけに任せることが自立ではありません。費用、送迎、帰宅時刻、生活上の条件など、家庭に関わる枠組みは早めに共有する必要があります。
本人はその条件の中で、何を優先し、どのような方法で目標へ近づくのかを考えます。
すべてを同じ強さで続けられない時期もある
習い事も続けたい。部活動にも力を入れたい。学校行事にも参加したい。高い進路目標も維持したい。
そのすべてが両立する時期もあります。
しかし、学年や目標、現在地によっては、すべてを同じ強さで続けることが難しい時期もあります。
そのときに必要なのは、最初から何かを諦めることではありません。
まず、本人は何を大切にしたいのか、それをいつまで続けたいのか。そして、目標に必要な学習は何か、それは現在の生活の中で本当に実行可能なのか──。この四つの視点を静かに確認します。
そのうえで、回数を減らす。期間を区切る。大会後に配分を変える。移動の少ない方法へ変える。進路目標を含めて優先順位を考え直す。
選択肢はいくつもあります。
ただし、限られた時間の中で、すべてを変えないまま、結果だけを望むことはできません。
結果を望むのであれば、その結果に必要な時間を、生活の「残り」へ置かないことが大切です。
両立できているかは、忙しさではなく状態で判断する
習い事と学習を両立できているかどうかは、毎日忙しく過ごしているかでは判断できません。
確認したいのは、次の状態です。
・指定された課題を期限までに完了できている
・丸付けと解き直しが行われている
・睡眠や体調を大きく崩していない
・確認テストで、学習内容を再現できている
・未完了が出ても、次の予定へ組み直せている
・一週間の中に、修正のための余白がある
これらが維持できていれば、予定が多くても、時間設計は一定程度機能しています。
反対に、課題の未完了、解き直しの不足、睡眠不足、同じ内容のつまずきが繰り返されている場合には、「本人がもっと頑張る」だけでは解決しない可能性があります。
予定の数、課題の置き方、学習する時間帯、目標の優先順位を見直す必要があります。
保護者の役割は、すべての時間を管理することではない
時間設計とは、子どもの一日を保護者が細かく管理することではありません。
家庭で確認したいのは、
「次の授業までに、何を終える必要がある?」
「それを、いつ行う予定?」
「予定どおりにできなかったら、どこで回収する?」
という三つです。
小学生では、保護者が一緒に予定を決め、完了を確認する。
中学生では、本人の計画を聞き、必要なときに修正を支える。
高校生では、本人の判断を尊重しながら、生活や進路に関わる条件を共有する。
管理の程度は変わっても、家庭が担う役割は共通しています。
学習が生活の中で継続できるように、環境と境界を整えることです。
おわりに
習い事と学力の関係は、「習い事をしているから伸びない」「習い事をやめれば伸びる」という単純なものではありません。
大切なのは、習い事を含む生活全体の中に、必要な学習と休息が配置されているかどうかです。
動かせない時間を確認する。一週間で完了すべきことを決める。課題の性質に合わせて時間を配置する。予定が崩れたときの余白を残す。
時間は、余ったところに学習を入れるだけでは整いません。
何を大切にするのかを考え、そのために必要な時間を先に守ることで、初めて継続できる形になります。
習い事を続けることも、学習へ力を注ぐことも、どちらか一方だけが正しいわけではありません。
家庭に必要なのは、正解を選ぶことではなく、選んだものが続く生活を設計することです。
💡 今日からできること
今日、お子様と一緒に、次の一週間の予定を一枚の紙へ書き出してみてください。
そして、
1.学校や習い事など、動かせない予定を書く
2.次回までに必ず完了する学習を一つ決める
3.予定どおりに進まなかったときの予備時間を一つ残す
この三つを行ってみてください。
一週間すべてを完璧に計画する必要はありません。
まず一つの課題について、「いつ行うか」と「できなかった場合にいつ回収するか」を決めること。
その小さな設計が、「時間があったら勉強する」状態を、「必要な学習を生活の中で続けられる」状態へ変えていきます。
📚 家庭学習設計シリーズ
このシリーズでは、Educatioが考える「家庭教育」について、教育学・認知心理学・長年の受験指導経験をもとに整理しています。
家庭での関わり方に迷ったときは、ぜひシリーズを通してご覧ください。
第1章 教育思想編
第1回
親は勉強を教えるべきか
──家庭教育で本当に大切な「環境」の設計
第2回
子どもが伸びる家庭の共通点
──家庭は「教える場所」ではなく「考える場所」
第2章 学年別設計編
第3回
小学生の親の役割
──「考える時間」を奪わない関わり方
第4回
中学生の親の役割
──管理ではなく伴走するという考え方
第5回
高校生の親の役割
──管理から信頼へ
第3章 家庭設計編
第6回
家庭学習で最も価値がある15分
──答え合わせより大切な時間
第7回(今回)
習い事と学力の関係
──時間設計という考え方
第8回
褒め方・叱り方で学力は変わるのか
──結果ではなく思考を認める
第9回
家庭での言葉が、子どもの思考に与える影響
──学びを止めない声掛け
第4章 自立設計編
第10回
自立する子は、どのように育つのか
──「勉強しなさい」を卒業する家庭
※シリーズの構成は、今後の内容に応じて追加・調整する場合があります。
📖 あわせて読みたい記事
▶ Educatio Design
──教育を設計するための思想と実践
(リンク)
▶ 第6回|家庭学習で最も価値がある15分
──答え合わせより大切な時間
(リンク)
▶ 第3回|小学生の親の役割
──「考える時間」を奪わない関わり方
(リンク)
▶ 学習設計記録/Learning Design Record
(リンク)
次回予告
第8回
褒め方・叱り方で学力は変わるのか
──結果ではなく思考を認める──
子どもがよい結果を出したとき、どのように褒めればよいのか。課題に取り組まなかったときや、同じ失敗を繰り返したとき、どのように伝えればよいのか。
褒めることも、叱ることも、それ自体が目的ではありません。
次回は、点数や正解だけを評価するのではなく、子どもが何を考え、どのように行動し、次に何を変えようとしているのかに目を向ける関わり方について整理します。
One Thought
時間設計とは、予定を詰めることではありません。
大切なことを続けられるように、先に順序と余白を決めることです。